揚げ物をするときに油を使いますが、油による火災が怖いという方も多いのではないでしょうか。
実際に、2024年では4人もの方がてんぷら油火災(この記事ではサラダ油による火災をてんぷら油火災と呼ぶこととします。)によって亡くなっています。
ガスコンロだけでなく、IHでも火災のリスクは同様にあるので注意が必要です。
もし火災に至った場合は、①コンロの火を消して、②消火器などの消火器具を使用する、ことが重要です。
この記事では、てんぷら油火災ををシミュレーションで再現し、公的なサイトの情報と合わせて、てんぷら油の危険性を確認していきます。
シミュレーションではサラダ油の蒸気が広がると、発火と同時に大きな火炎が立ち上がることが確認できました。
そして、火災に至った場合の消火方法もシミュレーションを用いて検証します。
シミュレーションによって、ふたを閉めることの有効性や、逆に「油やマヨネーズを加える」といった対策の危険性も確かめることができました。
消防設備士※の資格を取得している知識を生かして、消防設備について専門用語を使わずにわかりやすく解説します。
みなさんの生活を陰ながら守っている消火設備について知ってもらうことで、みなさんが安心して生活できることを目指しています。
また、消火設備について興味を持ったり、重要性が伝わると嬉しいです。
※消防設備士とは、感知器やスプリンクラー設備などの消防設備を設置・点検できる国家資格です。
※この記事は個人が執筆しているため、必ず法令や管理者の指導を遵守してください。また、記事の内容も個人の発信であることをご了承ください。
てんぷら油火災の現状
住宅における火災では、2024年の1年間で、てんぷら油による火災で4人もの方が亡くなっています※1。
てんぷら油に着火する火災と聞くと、調理中に目を離していて発火する(過熱)ことが思い浮かぶ方が多いと思います。
しかし、意外なことに、油を処理する過程で発火することもあります。油が温かいままキッチンペーパーで吸うと、さらに温度が上がるので注意が必要です。
この記事では、前者の調理中に目を離していててんぷら油が過熱して発火することによる火災に絞って、シミュレーションをもとに検証します。
※1 令和7年版 消防白書:https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r7/69377.html
てんぷら油火災はどのように起こる?
まずは、てんぷら油火災について理解してみましょう。家庭ではサラダ油で揚げ物をすることが多いため、サラダ油について考えていきます。
てんぷら油火災をシミュレーション
てんぷら油火災のメカニズムを理解するためにシミュレーションを行いました。
シミュレーションは、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のFDS(Fire Dynamics Simulator)という、火災の研究などにも使用されているシミュレーターを使用します。
シミュレーション条件
- 燃料はサラダ油の主成分であるオレイン酸を対象とした※1。
- シミュレーション開始時のサラダ油の温度は25℃とした。
- サラダ油の厚さは3 cmとした。
- コンロは1,500℃の熱源とした。
- フライパンは1辺20 cmの四角形とした。
モデルはこちらです。

この条件でシミュレーションを進めていきます。
シミュレーションを始めると、熱源が周囲の温度を上げてフライパンを熱していきます。
シミュレーション開始から3秒ほど経過すると、フライパンは約1000℃で安定的に加熱されます。また、フライパンの周囲には暖かい空気が上方に流れていることが確認できます。

シミュレーション開始後65秒ほど経過すると、温められたオレイン酸が蒸発し始めます。

シミュレーション開始後79秒ほど経過すると、フライパンに溜まったオレイン酸の蒸気が、フライパンを乗り越えてコンロの近くに到達します。

一般的に、暖かい空気や気体は上に流れます。コンロを付けたときに、コンロの上に手をかざすと暖かい空気を感じますよね。また、「やかん」や鍋から出た湯気が上に流れていくのを見たことがあると思います。
では、なぜサラダ油の主成分であるオレイン酸の蒸気は下に流れたのでしょうか。
これは、オレイン酸が重いためです。サラダ油の主成分であるオレイン酸は、空気の主成分である窒素の約10倍の重さがあります。
オレイン酸蒸気が下方向に流れ出たタイミングで、オレイン酸が勢いよく燃え始めます。炎の勢いを感じられるように動画にしています。
オレイン酸の蒸気がコンロに近づいたことで、オレイン酸蒸気の温度が上がり、発火したのです。
発火後、炎が一気にフライパン上部までオレイン酸蒸気を伝わっていき、フライパンに溜まった蒸気に引火することで、大きな火柱が瞬時に発生することがわかります。
このように、てんぷら油火災は初期から大きな炎を伴うことが確認できました。
なお、今回のモデルではオレイン酸に火が付いたタイミングでコンロを消しています。
このモデルでは加熱開始から80秒ほどで発火していますが、実際には21分程度で発火するとの情報※2があるため、オレイン酸に加わる熱量が大きいと考えられますが、火災を再現する目的は達成していると判断しました。
オレイン酸(C18H34O2)※3は分子量282、窒素(N2)は28のため、オレイン酸は窒素の10倍ほどの重さとなります。なお、サラダ油はオレイン酸を主成分とする混合物、空気は窒素を主成分とする混合物なので、実際の値とは差があります。
実際のてんぷら油火災について考察
シミュレーションではサラダ油の主成分であるオレイン酸の蒸気がコンロに触れることで発火しました。では、IHではてんぷら油火災が起こらないかというと、そんなことはありません。
シミュレーションはオレイン酸で行いましたが、サラダ油は混合物であり、その他の成分も含まれています。さらに、サラダ油が加熱されることによって別の成分に変わるなど、化学的な反応も伴います。
その結果、オレイン酸がコンロの火によって引火するところを、低い温度で自己発火する成分がコンロの代わりをしてしまうのです。
そのため、ガスコンロでもIHでも、サラダ油は360℃程度で発火してしまうのです。
また、FDSは液体としての計算ができず、固体として計算をしています。液体は沸騰するため、サラダ油がフライパンからこぼれるなどの危険性もあります※4。
引火:炎に触れて燃え始めること。
発火:炎がなくても燃え始めること。(オレイン酸の発火温度は約360℃)
※1 日本植物油協会:https://www.oil.or.jp/kiso/eiyou/eiyou02_02.html
※2 日清オイリオグループ株式会社:https://www.nisshin-oillio.com/story/p05-03.html
※3 国立環境研究所:https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/SEJ00277
※4 消防庁消防大学校 消防研究センター:https://nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo_81_120/
てんぷら油火災の消火方法は?
このように、てんぷら油火災は大きな炎を伴うため非常に危険です。てんぷら油火災が起こった場合の対策を確認していきましょう。
消火方法とやってはいけないことを確認
一般的な対処法をまとめました。
てんぷら油火災の際は、消火器やエアゾール式簡易消火具を使用することが最も効果的です。
適切な器具が手元にない場合は、濡れたタオルをかぶせることや、フライパンに蓋をすることで、空気中の酸素を遮断して、簡易的に対応することができます。
この場合、空気中の酸素がサラダ油に触れると発火する可能性があるので、火が消えても処置を止めずに消防へ連絡してください。※2
一方で、炎に驚いて水をかけてしまうと、水が瞬時に水蒸気となってサラダ油を飛散させ、逆効果になります。
マヨネーズやサラダ油を加えて、サラダ油の表面に膜を作ったり、温度を下げるという消火方法を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、逆効果になる可能性が高いので絶対に行わないでください。
今回は、サラダ油が燃えたときに、フライパンに蓋をして酸素を遮断する方法と、サラダ油を追加する方法をシミュレーションで検証します。
ふたをするシミュレーション
サラダ油が発火するのと同時に、フライパンに蓋をするシミュレーションを行いました。
シミュレーション条件
- シミュレーション開始時のサラダ油の温度は300℃とした。
- サラダ油の発火と同時にコンロの火を消す。
- サラダ油の発火と同時にフライパンに蓋をする。
このシミュレーションでは計算時間を少なくするために、サラダ油が高温の状態でシミュレーションを開始しているので、火災を再現したシミュレーションとは時間が異なります。
シミュレーション開始から約25秒後に発火し、数秒後に消火しています。
フライパン中央の酸素濃度と温度の関係から考えてみましょう。

サラダ油が発火した17秒を境に温度が約100℃から約440度まで上昇しており、酸素濃度は約21%から0%まで下がっています。
燃えるというのは酸化という反応で、酸素を使って燃えています。
フライパンに蓋をしたことで酸素がフライパンの中に入ってこられずに、フライパンの中の酸素が燃焼に使われていき、最後にはすべて消費して消えたのです。
このように、蓋をすることは完全に密閉ができれば有効な手段であることがわかります。
一方で、現実的には蓋をする際に、上方向に流れていた炎が蓋にさえぎられて横方向に広がることがあり、危険であることも事実です。
もし、他に方法がなく、どうしても行う場合は、自分の方向が下になるように蓋を斜めにしてフライパンにかぶせることで、自分の方向に来る炎の勢いは多少小さく抑えることができます。
蓋をするのは最善策ではないが一つの方法だと考えられます。
サラダ油を追加するシミュレーション
俗説として浸透している「てんぷら油火災が起きたときにサラダ油を追加する消火方法」についてシミュレーションで検証します。
サラダ油やマヨネーズを追加することで、サラダ油の温度を燃焼が継続できない温度まで下げれば消火するという説です。冒頭ではやっていいけない消火方法として紹介しましたね。
シミュレーション条件
- シミュレーション開始時のサラダ油の温度は300℃とした。
- サラダ油の発火と同時にコンロの火を消す。
- サラダ油の発火と同時にフライパンに50 g/sのサラダ油を加える。
シミュレーションでは、燃焼の邪魔をしないように天井からサラダ油を追加します。サラダ油の発火と同時に、コンロの火を消し、サラダ油を追加するシミュレーションを行います。
加えるサラダ油の重さは1秒当たり50 gとしました。900 gのサラダ油のボトルを18秒で注ぎ終えるイメージです。
蓋をしたシミュレーションと同様に、シミュレーション開始から約25秒で発火し、サラダ油が追加されます。
サラダ油を追加した後も、ほとんど炎の大きさが変わらないことがわかります。
フライパン中央の酸素濃度と温度を見てみましょう。

フライパンに蓋をした場合と異なり、サラダ油を追加した後も500℃程度になっており、火災が続いていることがわかります。
結局、シミュレーションが終わる60秒近くまで燃焼は続き、最後はシミュレーションの特性で中央の炎が燃え尽きていきました。
このように、てんぷら油火災時にサラダ油を追加しても、燃えているサラダ油を消火に有効な温度まで下げられない可能性が高いことがわかりました。
逆に、サラダ油の量が増えてしまうことや、燃えたサラダ油が飛散したり溢れたりするリスクを考えると逆効果になる可能性が高いと考えられます。
公的機関でも注意されているように、てんぷら油火災時にサラダ油やマヨネーズを追加するのは絶対にやめましょう。
酸素濃度が低いのは燃焼に酸素が消費されたためだと考えられます。サラダ油と酸素が触れる場所で炎が発生し、それより内側はサラダ油蒸気で満たされた、酸素濃度0%の空間となります。
万が一に備えて対策を
これまでは、キッチンにあるものでの消火方法を検証してきました。
しかし、てんぷら油火災は炎の勢いが強く、なかなか消えないのが現状です。
万が一に備えて、消火器やエアゾール式簡易消火設備を用意しておくと安心です※1。
消火器は、てんぷら油火災に効果が薄い「中性強化液」を避けるようにしましょう。ただし、薬剤の噴射による勢いによって炎が広がる可能性があるので注意が必要です。
そのため、消防研究センターでは、消防器具の性能評価を行う「日本消防検定協会」が認めた「エアゾール式簡易消火具」の使用を推奨しています。
また、調理中は下記のことに注意してください。
少ない油を加熱すると急激に油の温度が上がります。水を沸かすときも少ない量のほうがすぐに沸くのと同じです。
蓋をして油を加熱すると、油が発火温度に達しても燃えずに高温になります。気付かずに蓋を取ると空気中の酸素と激しく反応し始め、大きな火柱となります※2。
※1 消防庁消防大学校 消防研究センター:https://nrifd.fdma.go.jp/public_info/faq/tenpura_shokaki/index.html
※2 さいたま市:https://www.city.saitama.lg.jp/001/011/014/004/001/p075606.html
CBC WEB:https://newsdig.tbs.co.jp/articles/cbc/1198629?page=3
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
サラダ油による「てんぷら油火災」についてシミュレーションをして検証をしました。
あわせて、今回は検証していませんが、片付けをするときにキッチンペーパーなどでサラダ油を吸い取るときに、サラダ油の温度が上昇します。
サラダ油を吸い取る場合は、サラダ油の温度が十分に下がってから行うように注意してください。
この記事ではてんぷら火災について紹介してきました。
調理中は目を離さずに、近くには消火器具を置いて、安心しておいしい揚げ物を作ってもらえると嬉しいです。


コメント